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~澄んだ声で歌う~
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白い白い砂の海が、まるで果てがないかと思われる程、
どこまでも続いていた。
私はまるで夢遊病者の様に、容赦無く照りつける太陽の下を、
ゆらゆらと歩いていた。


その街を見つけたのは、そうして水も食糧も尽き、もう駄目かと
観念した時であった。


初め、巨大な光の玉が降ってきたのかと錯覚した程、それは
白一色の街だった。


建物などは勿論、そこに住む人々も、皆純白の衣装を身に纏い、
透き通る様に白い肌をしていた。
髪と目の色だけが、深い闇の様に、黒々と輝いている。

そして、男は小ぶりの赤い帽子を、女達は、やはり小さな赤い
髪飾りをつけ、その黒と赤以外は、何もかもが白に彩られている
のだった。




私を泊めてくれた宿の娘も、やはり漆黒の髪と眸を持ち、それ
以外は何もかもが白く輝いているかの様に思われた。
体の調子も回復し、必要な物は全て揃え、それでも尚、ここに
留まっていたのは、介抱を受けるうちに、いつしかこの娘に
淡い想いを寄せる様になっていたからだった。

彼女は、口数は少ないものの、眼差しはいつも相手の眸に
くっきりと留める。
黒い眸の奥で、凛とした強さが、静かに波打っているかの様に
思えた。

 


やがて──

ふた月余りが過ぎる頃。


娘と私は次第に親しさを増していったが、しかし彼女はいつも、
誰かを待っているかの様にも思われた。


そして、ある日の夕暮れの事。
彼女はふいに言ったのだった。

「明日、結婚が決まります」

何も応えられないまま、私は彼女を見ていた。
その言葉よりも、むしろその言い方の唐突さに驚いていた。


「・・・おめでとう。それで──その幸運なお相手は──」
暫くしてから、漸くそれだけを尋ねる事が出来た。
このふた月の間、訪れる人は勿論、彼女の元には手紙が届いた
気配すらなく、内心半信半疑ではあった。

「まだ分かりません」
娘は穏やかに答えた。
「どういう事だい?」
「明日の夜、唄祭りの時に決まるのです」
「唄祭り──。お見合いパーティー、といったところかな?  でも、
必ずしも、皆が皆──」
「いいえ」
涼しい微笑を浮かべて、彼女は首を横に振った。
「この街では、19になると、男も女も皆祭りに行き、生涯唯一人の
相手と巡り逢うのです」


そんなに簡単に行くものだろうか・・・


そう言おうとして、しかし私は、言葉を喉の奥に押し戻した。
あまりに静かな彼女の眸が、私の心に切なかった。

 



翌日、娘の買い物を手伝った帰り、私は泉のほとりに佇む人々の姿に
足を止めた。

「あの人達は──いつもああして、あそこに来ているようだけど?」

娘は頷き
「仕事の合間に、或いは、仕事をしながら、此処にこうして居るのです」
「何故・・・?」
「あの泉の底に、夫や妻が眠っているからです」

私は驚き、彼女の顔を見た。

「遺骨を壺に納めて、この泉に沈めるのが、この街の慣わしなのです。
そうして──」
「亡くなった後もずっと、此処でこうして、そばを離れずにいる──」
「そうです」
彼女は再び静かに頷いた。

私は、娘の、黒い眸をじっと見つめた。
しかしその漆黒の宝石は、想いを映す事を頑なに拒んでいる様だった。




「──お幸せに」

夜が訪れた。私はそれだけ言って微笑した。

彼女も又、ゆるやかに微笑んだ。

「貴方の事は、決して忘れません」

普通であれば、芝居がかって聴こえる筈のその言葉が、娘の口から
こぼれると、何故か穏やかに私の耳に響いた。

「ありがとう。・・・僕も忘れない」

そうして、私達は外に出た。




祭りの広場が見えてきた、その時。
私は、ふと目の前に、白い影がちらつくのに足を止めた。
「雪!?」
手に触れた瞬間、叫んでいた。

──それは、紛れもなく、あの冷たい雪だった。何故砂漠に──

うろたえ、立ち竦む。

「雪が降る。白く、深く、雪が降る。それでも永遠(とわ)に、
貴方を愛す」
傍らで、娘が言った。
私は茫然と彼女を見た。
「たとえ地に伏し、雪に覆われても、それでも永遠に、貴方を愛す──」
そこで言葉を閉ざし、彼女が私を見た。
「これが、誓いの唄です」

私は、無言のまま、降りしきる雪を見ていた。淡い冷たさの中で、
全てが分かった気がした。

「泉は・・・泉は凍らないんだね。たとえ、どれ程雪が降ろうと・・・」
「ええ」

娘は頷いた。
心なしか、その目は潤んでいるようにも見えた。

 


教会の鐘が鳴り響く。
祭りが始まったのだ。
若者達が、娘達が、それぞれに、思い思いの場所で歌いだす。

『・・・たとえ地に伏し、雪に覆われても・・・』

初め無秩序に響き合っていたそれらの音は、次第に美しいハーモニーを
作り始め、若者は、自分の声に重なる声を持った娘の手を取り、広場の
端を歩き出す。

彼女の前にも、1人の青年が歩み寄った。

差し出された手に、ほんの一瞬、彼女の歌声が震えたが、それは相手の
若者にさえ気づかれなかった。



やがて──大きな輪が、広場を囲んで周り始めた。


私は静かに背を向けた。
しんしんと降り続く雪の中を歩き出す。

歌声が緩やかに遠ざかる。

『それでも永遠に、貴方を愛す──』

私はそっと、白い風花を、掌に握りしめた。

 




白いカーテンが揺れている。

眩しい日差しに、無意識に目をしかめる。

「ああ、気がつきましたね」
声のする方へ、ぼんやりと視線を向けると、そこには褐色の肌をした
看護師がいた。


──いつのまにか、私は、病院のベッドの上にいた。


「気分はどうですか? 今先生を呼んできますから。貴方を助けた
人達は、又後で様子を見に来ると言っていましたから、よくお礼を
言わなくてはね」
「・・・私は──」
「砂漠で行き倒れになっていたんですよ。発見が早かったから良かった
ようなものの、あまり無茶をするものではありませんわ」
小言を言いかけて、彼女はふと思い出した様に、ポケットを探った。
「そうそう、これ。貴方が手に握りしめていた物です。鳥の羽根・・・
ですよね? 真っ白で、とても綺麗ね」



手渡されたそれに、しかし私は少しも驚かなかった。


唯、熱い塊が、喉元にわだかまるのを抑える事が出来なかった。





折からの風に、私の掌の上でふわりと踊るそれは、1枚の真っ白な
丹頂鶴の羽根だった。

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女性
誕生日:
1965/07/21
職業:
カード・リーディング・セラピスト
趣味:
映画・舞台鑑賞 美術鑑賞
自己紹介:
アロマセラピー、リフレクソロジーと学び、とりわけスピリチュアル・アロマの奥深さに大きく影響を受けました。
その日、その時、心惹かれる香りは、潜在意識からのメッセージです。

色彩心理やカウンセリングも再度勉強、西洋占星術や四柱推命、紫微斗占術 等と併せ、タロットやオラクル・カードのリーディング・セッションを行っています。

<答え>は、いつも貴方の中に。
迷った時は、カードに尋ねてみませんか?
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